第31回日本意識障害学会
会長 森田 功
藤田医科大学医学部 脳神経外科
この度、第31回日本意識障害学会を2023年8月25日(金)、26日(土)に名古屋(ウィンクあいち)で開催させていただきますことをたいへん光栄に思っております。奇しくも神野哲夫先生が第2回意識障害の治療研究会の会長を務められてから30年後になります。自分自身も治療、研究だけではなく、学会事務局の一員としてお手伝いをさせていただいておりましたので、様々な意味で感無量であります。
さて、今回のテーマは、「この国の医療の民度を示す」という自然科学というよりは文化歴史的な意味合いを色濃く反映いたしました。司馬遼太郎先生は数々の著作の中で、この国の歴史を語り、未来を憂いていました。また、文明と文化は異なるものであることを我々に分かり易く教えてくれました。医療における「文明」とは、最先端の設備や技術を意味します。これらによって、今まで救えなかった命、困難な病に立ち向かうことが可能になりました。また「文化」とは、欧米先進国と比べて我が国の医療は優しく温かいといわれていること。その多くは医療従事者の自己犠牲と献身で成り立っているなどの問題もあります。国民皆保険制度もそうかもしれません。これらの総合されたものがその国の医療における「民度」といえましょう。「民度」という単語は、自虐的な表現や他の国を蔑むような場面で使われることが多いのですが、本来は国や国民の姿を示す言葉であるはずです。
わが国の医療財源はひっ迫し、現場では様々なしわ寄せが及んでいます。しかし、優秀な人材確保と設備がなければ最先端医療はできません。そのような中で当学会がテーマとしている遷延性意識障害治療や患者様が十分な医療の恩恵を受けられているのでしょうか。先人たちが築いてきた遷延性意識障害治療を継続していくためにも、精神論や献身に頼っていてはいけません。制約された中でも、私たちは効果的な治療方法を編み出し、新しい知見を探索しなければなりません。医療における「文明」と「文化」その両方を真摯に考えることによって、すなわち「民度」を示したいと願いタイトルといたしました。
2023年夏、みなさまに名古屋でお会いできますことを楽しみにしております。